航空自衛隊 一般幹部候補生 飛行要員採用試験 受験記録①(1次~2次編)

この記事は,東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2020に参加しています。

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航空B4(2)のあちゃぴぃです。卒業設計の単位認定を保留し、休学生としてユウイギな一年を送る予定でしたがCOVID-19の影響で海外インターンが中止、学生フォーミュラ大会も中止になってしまい、新年度から慌てて就活を始めました。官民両方の就職活動をしましたが、中でも特殊な受験であった航空自衛隊の一般幹部候補生 飛行要員採用試験の体験談をご紹介したいと思います。

 

  

はじめに注意書きとか概要とか

本受験談は、以降の受験者・受験検討者にとって過度に有利にならないようにしつつも、ある程度どのような流れで試験が進むのか、少しでもイメージを持っていただきたいため作成いたしました。あくまで2020年の受験の体験談としてお読みいただき、来年度以降の受験を本格的に検討している方がいれば、お近くの地方協力本部/事務所などに連絡し広報官から最新の受験情報を取得することをお勧めします。また特に文章で試験内容漏らすなとは言われなかった(基地内撮影禁止、適性検査のスマホ撮影禁止は言われた)ので公開しましたが、マズイ記載内容/削除すべき内容等あればご連絡ください。

 

この試験は自衛隊において将来的に部隊等を率いる幹部自衛官になる、幹部候補生を採用する試験になります。
一般という名称は大学の文系・理工系から進む通常の幹部候補生コースという意味で、他にも医科幹部候補生・薬科幹部候補生があります。また、海上自衛隊航空自衛隊では飛行要員という、自衛隊の航空機のパイロットになる受験区分があります。(自衛隊パイロットへの道は他にも高校卒業から入隊する航空学生というのもあります。)

 

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10秒で要約

一次試験はペーパーテスト。

二次は面接・身体検査・小論文。

三次試験は飛行適性試験・面接・医療適性検査。

 

 

出願

私の受験理由等は省略します、皆さんも各々のモチベーションで受験してください。

ホームページから資料を請求して数時間以内に近くの地方協力事務所の広報官から連絡があり、その日のうちに出願書類やパンフレットなどを自宅まで届けに来てもらいました。めちゃくちゃ早かったです。

広報官は(この受験では)民間の就活で言うリクルーターのような立場で、以降は定期的に連絡を取り合うことになります。電話で気軽に質問できたり、時には過去問を印刷してわざわざ自宅まで届けに来てもらったりしました。

 

1次試験

Day1

ペーパーテストです。問題集などが書店やア〇ゾンに売っているのでそれで対策します。某学科の某教員がよく演習とかでめちゃくちゃ煽る公務員試験と同じようなやつ。(これも一応公務員試験か?)

私はこれの2019年版を買ったのと、(問題だけですが)広報官から2014以前の問題を印刷したものを貰い、本番演習しました。

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会場はそれぞれの都道府県の地方協力本部のもと(?)で受験します。私の県では県庁付近のナントカ会館の大きい会議室が会場でした。

普通の検定試験や模試・入試と唯一違うのが試験監督の方々が全員自衛隊(陸海空それぞれ)の制服姿だったことぐらいです。

入室前に消毒・検温・体調チェックがあったり、会場案内してくださった自衛官が皆フェイスシールドとマスクを着用していたり、所謂コロナ対策をしていました。また長テーブルの右端に一人、その後ろのテーブルには左端に一人、といった形で交互に座ったため、目の前や真後ろに他の受験生がいなくて比較的安心して受験できました。

 

科目は一般教養(その1、その2)と専門(択一、記述)です。

一般教養は200分で、その1は40問選択式で、問題番号1~30のうちから20問選択、31~40は必答という形式になっています。

日本史、世界史、倫理政治経済が20問。数学が3問程度、理科が7問程度、英語の単発回答(並び替え、語句埋め)が8問程度、英語の文章要約(1パラグラフ程度)が2問程度になっています。

理系科目と英語は大丈夫でしたが、恥ずかしながら地歴公民は大学受験以来完全ノータッチでこのためにもう一回大学受験勉強時代の教材を引っ張り出して勉強しました。塾講師バイトやっている人は強いかも。

 

その2は国語と数学です。国語は10問で、評論(1ページ程度)要約や空欄補充・並び替えが7問程度、古文漢文の要約が3問です。数学はSPIみたいな問題(組み合わせ、統計、簡単な図形問題etc.)が30問です。

すべてセンター試験レベルからSPIレベルの問題で5択です。マークシートで回答します。

 

専門は択一式試験と記述式試験があります。

択一は【人文科学、社会科学、理・工学】の3科目から1つ選び回答。ただし、技術幹部候補生志望者は必ず理工を選択しなければなりません。36問程度の5択問題で、20問選択し回答します。

内容は数学(微積線形、複素数)、材料力学、熱力学、電磁気学、無機・有機化学、生物などです。

 

記述は【心理、教育、英語、行政、法律、経済、国際関係、社会、数学、物理、化学、情報工学、電気、電子、機械(造船含む)、土木、建築、航空工学、海洋・航海】の19科目から1つ選択して回答します。同じくこれも技術幹部候補生志望者は数学、物理、化学、情報工学、電気、電子、機械(造船含む)、土木、建築、航空工学、海洋・航海の11科目の中から回答しないといけないです。

どれも大問2つ分で、文系科目なら「~について説明せよ」、英語は和訳と英訳、理工系は更に小問に分けて大学の演習問題~院試問題っぽい雰囲気のが出ます。特に機械・土木・建築は大問1.5問分ぐらいが4力学でカバーできて、最後だけ土木学科・建築学科の人しか知らなさそう…みたいな構成なので航空民でも75%ぐらいは書けるはず。

 

航空工学は1つ目の大問で計算問題、2つ目で単発記述問題があります。

計算問題は航空の授業で言う航空機力学第一第二、ジェットエンジン/ガスタービン第一第二の期末問題と演習問題みたいな感じでした。「水平定常巡航状態のジェット機の力のつり合い式、エンジンの推力計算、そこから二つ合わせて比航続距離の記述」「グライダーの力のつり合い、実機と水槽実験模型とのスケーリング」とかが過去問や今年の問題でありました。

単発記述問題は文字通り、「衝撃波失速(Shock Stall)って?」「翼型を決めるパラメータは?」「ウィングレットの役割は?」「主翼後縁のフラップ下げたら風圧中心は?」みたいなのが4つあり、2つ回答します。

 

時間になり、回答用紙が回収されたら解散です。土曜日でほぼ一日かかりました。

 

12/5追記

この時の試験問題が公開されていました。出版されている過去問と違って実際の問題用紙のスキャンなのと、解答用紙も公開されているのでよりリアルな試験対策を行いたい方はこちらも見てみてください。

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Day2

 

飛行要員希望者だけ次の日にもう一度試験会場に行き、適性検査を受けます。適性検査は:

「最初の基準図の飛行姿勢になっている機体がその状態からある角度(45°,90°,180°etc.)ピッチ/ロール/ヨーした後の姿勢はどのように見えるか」

「姿勢指示器など航空計器が二つあり(ここチョットうろ覚えです)、計器からどのような飛行姿勢にいるのか選択」

「真上から見た機体が8方向のうちどこかを向いており、8方位が一つ分かっている(右上を向いていて、機体真後ろが南東、など)。選択肢にも同じような方角/方位の絵があり、基準のと同じ方角を向いているのはどれ」

 

などの問題セットを15分以内に3,40問回答する、みたいな空間把握能力(?)を見ている問題と

 

「飛行機の操縦席(明らかにT-7の前席)から数秒おきに撮影した3枚の写真があり、どんな操縦入力をするとこの写真のように変化するのか回答(ラダー・エルロン・エレベーター)」

の空間把握×操縦の基本のキを見る問題セットがありました。

飛行姿勢の問題の図の機体がなぜかどれもブルーインパルスの(よりによって)3号機だったのが印象的でした(笑)

 

白黒の問題用紙の中でもパッと見て飛行姿勢(どっちが腹でどっちが背か等々)が分かりやすいように塗り分けられている練習機(というかBI)の機体塗装ってちゃんと考えられているんだな~って初めて感心しました。風景写真の方は恐ろしく白黒印刷クオリティでいや見づらっ!ってツッコみながら解答しました。

 

私のようにズル賢い人だと「これ消しゴムに飛行機の絵描いてクルクル回してみればイメージしなくてもできるのでは」なんて考えますがちゃんと受験の注意事項で禁止されていました。 

エース〇ンバットやMFS, MCFS, DCSの三人称視点とかで飛んでいたりするとピンと来るかもしれません。私は試験前に試験勉強ほったらかしてエスコン7をやり込んでいて助かりました(?)

 

こちらは半日で終わりました。

 

 

 

2次試験

一次に合格すれば二次試験です。(あたりまえ体操

 

地方協力本部ごとの合格者だけで、航空自衛隊の基地で一日がかりで受験します。基地に近い駅のロータリーに集合して、そのままバスで基地内へ。

到着してすぐ、採血されました。ボケっとしていたら爽やかな女性医官に「針が入っていくとこ見ないタイプ?(笑) ほらほら、入っていくよ~(笑)」って煽られました。朝から充実したサービス

                           

終わったら全員でまた違う建物にぞろぞろと移動し、試験会場に入ります。講堂みたいな場所でしたが一次ほど人数がいなかったため、各テーブルに一人ずつ、しかもかなり間隔をあけて座ります。試験問題や登録用紙(?) の配布などは1次とほぼ同じでしたが配布などの準備中に国旗掲揚・課業開始のラッパが鳴り、突然作業をされていた監督官たちが皆立ち止まって基地内の国旗の方に向いたときは自衛隊の試験だなぁと特に感じました。

 

小論文は試験時間一時間ちょいで、812字の原稿用紙で回答します。問題は2つあるものから一つ選択します。だいたいは

 

「【とあるキーワード】について概要を説明し、あなたの思うところを述べよ。」

 

というお決まりの問題文になっています。

 過去に出題されたので言うと

 

【我が国周辺の安全保障環境、中国の軍事力拡大、動的防衛力、欧州の金融危機、日本のエネルギー問題、東日本大震災からの復興、多次元統合防衛力、入国管理法の改正、ハラスメント、ドローン、自動運転、パリ協定、サイバー攻撃

 

などがありました。(うろ覚え

お題は防衛・政治・経済関係の社会問題・時事ネタがメインです。防衛関連は防衛白書を読むといいでしょう。時事ネタは一般的に昨年度注目された国内外の社会問題などが出るらしいです。

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小論文は優良可不可(?)と東大生お馴染みの評価で採点されるらしいです。残念ながら優上は無いけど、優三割規定もないから安心して優を目指せるね!f:id:acha_pi:20201204193956p:plain

 

ちなみにどんなにトンデモ理論やブッ飛び公約でも論理・一貫性・テーマ理解・適切な表現があれば評価はつくらしいので誰か試してみてください。(国家安泰には大仏建立,etc)

 

12/5追記

こちらも問題・回答用紙が公開されていました。リンクでご紹介しておきます。

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一時間ほどで小論文は終わり、残りの時間は身体検査と面接です。ここからは会場に待機しつつ、呼ばれれば身体検査や面接に行くという流れになります。待っている間に読む本などがあるといいでしょう。

 

記憶の範囲でやったのは視力・肺活量・心電図・血圧・聴力・尿検査、レントゲン、問診、あとは自衛隊防大の受験とかでやる関節の体操(?)的なやつをやります。内容的にはおそらく3次試験の飛行検査を行うために必要な操縦練習許可証(の自衛隊版的な何か?)を発行するための航空身体検査に自衛官採用の身体チェックかなという感じでした。

 

参考:航空身体検査マニュアルhttps://www.aeromedical.or.jp/manual/pdf/r010617_323.pdf

 

関節の体操的なのは受験者全員パンイチになり、前の医官の指示に従って腕を延ばしたり手足を回したりしてちゃんと関節が動くかを見ていました。受験者一人一人に医官の方がついて、じろじろ見てくれます。前かがみになっている間に自分の検査担当だった医官の方が背骨を触って何か確認をしていたり、目を閉じたまま片足立ちで30秒維持できるか見られたりもしました。

 

問診ではチェックリストに基づいて既往歴の有無などをぜーんぶ確認します。

マジで全部です。中学校の頃に体育祭の騎馬戦で落下したときにできた肩のアザとかも「これはいつどこで怪我されましたが?」とか聞いてきました。

 

12/5追記

不合格疾患、身体検査等の基準についてが自衛隊募集ホームページに記載されています。こちらもリンクでご紹介しておきます。

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ちなみに私はここで初めて(?)歯のレントゲンを撮ってもらい、親知らずがあることを初めて教えていただきました。実質無料の精密身体検査f:id:acha_pi:20201204193956p:plain

 

午後からは面接も開始します。会場は受験会場のすぐ近くの部屋で、直前になると担当の自衛官に連れて行かれます。会場は研修室というか会議室というか所謂ああいう系のめちゃくちゃ広い部屋(語彙力)で、部屋の向こう側には飛沫防止フイルムに守られた制服の面接官3名、部屋のこっち側、スーパーソーシャルディスタンスを経て椅子がポツンとあり自分が座ります。

 

なんだかんだで民間の就活がすべてオンラインだったので初めての対面面接でした。

 

面接は3,40分ぐらいで:

  • 志望理由(なぜ幹部候補生/飛行要員を志願したか)
  • 大学の専攻・研究の説明
  • 部活やサークル・アルバイトの経験など
  • 自衛隊らしい質問では「両親は(合格したら自衛隊に入ることになることについて)どう思っているか」「集団生活は大丈夫か」「体力は自信あるか」
  • 受験生の知識を確認する質問では「航空自衛隊のおおまかな基地・配備部隊・配備機体など知っているか」
  • 幹部候補生試験らしいところでは「今まで部活やサークルなどでリーダーの経験はあるか」「自分が上級生/幹部でいたときに部活でどんなピンチがあり、どのように克服したか」
  • 飛行要員らしい質問では「(戦闘機とか輸送機とかで)何乗りたい?」

など聞かれました。卒業設計の話にもなり、「機体やエンジンを実際に0から検討・設計し、実寸で製図します!!!!!!!」ってドヤ顔で言ったら結構食いついてきてくれて

『どんなエンジン書いたの!?戦闘機?』

「いや、学科の方針で軍用機はNGになっていて...」

って説明したら(´·ω·`)ショボーン って顔されました。

 

全員の身体検査と面接が終わるまでひたすら待機です。17,8時ぐらいまでかかりました。

 

 

以上、1次試験・2次試験までの体験談でした。

 

3次試験は航空自衛隊の基地で一週間近く滞在し、実際に初等練習機T-7に乗り込んで操縦適性検査を行ったり、医療適性検査、面接を行いますがそちらはStudent Formula Advent Calendar 12/8日分の記事として公開します(これから書きますf:id:acha_pi:20201204193956p:plain)

 

追記:書きました!こちら↓

 

acha-pi.hatenablog.com


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ネットの海を漁ると数少ない3次試験の体験談を書いている方がいますので一応こちらでも紹介しておきます。

mbuchi.hateblo.jp

 

明日はford_aero先輩がポエムを書いてくれるらしいです。よろしくお願いいたします!